久々にプールで泳いできた。
肩が結構痛い。
途中知らないおっさんと握手した。
というのも、ほぼ同時にスタートしたおっさんと俺は、
最初隣同士のレーンで並走する形を取っていた。
25mプールの半分くらい、そう、15mくらいまでは同じペースで泳いでいた。
あの瞬間までは平和な日常だったんだ。
ふとした出来事が、日々の生活を狂わせてしまう事があると、
この時の俺はまだ子供だったから分からなかったんだ。
いや、分からなかったんじゃない。
分かってはいたんだけど、目を背けたかったんだ。
現実という名の荒波に。戦う事の理由に。
刹那、ついに戦いの火蓋が切って落とされた。
15mを過ぎたおっさんが急に、スピードを上げたんだ。
あんなに激しい戦いが繰り広げられるとは、
この時はまだ誰も知る由もなかったんだ。
当時の事について俺がインタビューに応じてくれた。
俺「いやぁ。一瞬でした。何が起こったか分からなくて、目の前が真っ暗になりましたよ。」
負けられない戦いがそこにはあった。
負けじと俺もおっさんに喰らいつく。
25mのターンはほぼ同時。
わずかに俺がタッチの差で上回っていた。
そしてさらに俺が加速。
するとおっさんも加速して抜きにかかってきた!
抜き返される俺!
だが俺にもプライドがある。かつての栄光を取り戻すために。
こんな。こんな市民プールで敗戦を喫する訳にはいかない!
体が悲鳴を上げる。
でも俺は勝たないといけないんだ。
あの日の約束、連れ添ってきたダチ。家族!そして俺自身のために!
夢のゴールまではラスト10m。おっさんが体半分抜け出す!
俺は本気を出した。必死に泳いだ。
昔も今も変わらない。誰にも負けたくない!
その気持ちがあるからこそここまでやってこれたんだ!
負けたくないのはお前も一緒だろう!だがしかし!
俺の想いは命をたぎらせ全身を突き動かす!もう誰にも負けない!
そして、ゴールをタッチした。
僅差で、おっさんを、下した。
おもむろに顔を上げるおっさんと俺。
二人の表情は晴れやかだった。
両者自然と手を差し伸べる。
いい戦いだった。
また会う時まで、きっと忘れない。
直後疲れ果てて俺はすぐに帰った。
おっさんまだ泳いでた。
おっさんは戦いに負けて、勝負に勝ったんだ。
おっさんの顔は、もう忘れた。ゴーグルしてたし。
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